照心洗心録

安岡正篤、中村天風などから学んだことをまとめています。

4.人類の還る場所

「竹切れで水を叩くと泡が出る。その泡が水の表面をフワリフワリと回転して、無常の風に会って、またもとの水と空気にフッと立ち帰るまでのお慰みがいわゆる人生というやつだ」

杉山茂丸

 

人類が生息している地球は、太陽を中心とする太陽系の中にあり、太陽系は天の川銀河に属しています。

そして宇宙には、他にも無数の銀河があるといわれています。

宇宙という大きな目線から考えると、地球の属する太陽系はほんの一部にすぎません。

 

私たち人間は、多くが水分で、他にタンパク質や脂質で構成されています。

細かくみれば、人間は皮膚や筋肉、骨、臓器、血液などで構成されています。

さらに細かくみれば、それらはいくつもの細胞でつくられています。

また元素レベルで考えると、酸素、炭素、水素、窒素なとが大部分を占めていて、他にも、カルシウムやリンなどが含まれています。

そして、それらの元素は粒子でつくられていることがわかっています。

 

では、人間の正体は粒子でしょうか。

この宇宙の万物は、生命のあるなしに関わらず、粒子でつくられています。

もし人間の正体が粒子なら、人間は宇宙の万物と本質的には同一の物体ということになり、宇宙の一部であると考えることができます。

それはまるで、細胞が人間の一部であることようです。

 

宇宙ができる前は、プラスとマイナスの粒子がぶつかり合って、結果的にゼロになっている無の状態でした。

プラスとマイナスが相殺して無になっているだけで、目に見えないところでは、活動が起こっていたのです。

あるときその均衡が崩れ、そこに発生した真空エネルギーがゆらいだことにより、極小の宇宙が誕生します。

そして、顕微鏡でも見えないほどの極小の宇宙が、ほんの一瞬で、一センチほどに急激に膨張することで、エネルギーが放出されました。

それによって宇宙は、超高温・超高密度の火の玉となり、それが大爆発することで、光を含む大量の素粒子が生まれました。

この世界の物質をバラバラにしていって、これ以上分けることができない最小の粒子を、素粒子といいます。

また、極小の宇宙が急膨張することをインフレーションといい、火の玉が大爆発することをビッグバンといいます。

その後、宇宙は大きく膨張しながら冷えていき、その過程で素粒子が集まって、陽子や中性子ができました。

そして、陽子と中性子が集まって原子核となり、宇宙に飛び交っていた電子と結合して、原子ができました。

宇宙は、今も膨張を続けているといいます。

 

人間は宇宙の一部であり、宇宙は無から誕生しました。

ということは、人間も無から誕生したと考えられます。

宇宙の誕生は百三十八億年前といわれています。

宇宙の長い歴史から考えれば、一人の人間の人生は一瞬にすぎません。

水から泡が生まれ、それが弾けて、水と空気に戻っていくようなものかもしれません。

泡が消えた後も、水と空気の量は変わりません。

 

人間も泡のように、この世界から生まれ、死んでしまった後も、この世界のエネルギーの総量は変わりません。

人間は無から生まれ、無に還っていくのです。

無に実体はありませんが、そこにはエネルギーが存在していて、その流れがあります。

宇宙という視点から考えれば、人間の一生とは、エネルギーのゆらぎのようなものかもしれません。

 

人間は無から生まれたはずなのに、無を恐れます。

それは動物の本能なので、仕方がないのかもしれませんが、必要以上に死を恐れていると、精神に悪影響を及ぼしてしまいます。

死の恐怖は、不安や怒りなどのさまざまな苦しみを生むのです。

 

生と死は切り離せません。

人間は、永遠に生き続けることができないのです。

どんなにあがこうとも、人間は必ず死にます。

死を必要以上に恐れて、苦しみを増していくよりも、生きている間は、人生を楽しみましょう。

人類にとって、無は切っても切り離せない存在であり、生まれ故郷であり、還る場所でもあるのです。