照心洗心録

安岡正篤、中村天風などから学んだことをまとめています。

16.真実の世界

「本当にこの世に実在するのはイデアであって、我々が肉体的に感覚する対象や世界とはあくまでイデアの似像にすぎない」

プラトン

 

私たちが認識している世界は、果たして正確なものなのでしょうか。
心が活動しているから、人間はいろいろなものを感じることができます。

目や耳などで何かを感じることによって、人間はこの世界を認識しています。

人間の心が感じとる世界を、三つに分けて考えてみましょう。

 

一つ目は、物質の世界です。
これは私たちが五感で感じている世界のことで、人間の五感というフィルターがかかっています。

視力が悪ければ、景色の見え方が変わるように、私たちは現実そのままを見ているわけではありません。

人間の脳が勝手に何かを補ったり、足したり引いたりしています。

 

二つ目は精神の世界です。
これは人間の心が創り出す世界であり、他人のものをみることはできません。

この世界も、実際の自分の精神世界をみているわけではなく、思い込みなどによって捏造されています。

例えば、自分の精神の強さを実際より高く見積もっていると、耐えられると思っている出来事に耐えることができません。

自分の精神の世界であっても、正確に理解することは難しく、主観というフィルターがかかってしまいます。

誰もが主観で自分の心をとらえているので、客観性のない部分があるのです。

 

三つ目はエネルギーの世界です。
オーラが見えるという人や、幻聴が聞こえるという人がいますが、これは目に見えないものや、耳では聞こえないものを心が感じとっています。

五感では感じるはずのない直感や、虫の知らせなども、何らかのエネルギーを心が感じとっているのかもしれません。

しかしこれも、人の心が感じとっている以上、主観が入っており、実際のエネルギーの世界を感じているわけではありません。

 

真実の物理的な世界、精神世界、エネルギーの世界があって、それらを人の心がとらえると、フィルターのかかった三つの世界になります。

このフィルターのかかった世界が、実際の世界とは乖離していることを理解することが大事で、私たちはありのままの世界を観測していないことを覚えておくようにしましょう。


私たちが視覚で感じる色は、跳ね返ってきた光の色なので、人は光がなければ色を感じることができません。

植物の葉は緑色をしているのではなく、緑色の光を反射しているだけなのです。

脳が間違って認識すれば、実物よりも大きく見えたり、近くに見えたりすることがあります。

トリックアートは人間の目の錯覚を利用しアート作品です。
また、人間は感情を視界に反映してしまいます。

例えば精神状態が不安定だと、ほこりや壁の汚れが虫に見えたりします。

緑内障になって視野が欠けても、脳が勝手にその欠損部分を補ってくれるので、自覚症状に乏しいようです。

脳は、自分勝手に視界を変えてしまうのです。

色を感知する細胞に異常があれば、見える世界の色合いは他の人と違ってきます。

動物によって見えている世界はまったく違うそうです。


脳に異常があると、幻覚を見ることがありますが、そのとき脳は実際に何かを認識しています。

幻覚を見ている人は、何かが見える気がするのではなく、実際に何かを見ているのです。

このことからも、見えている世界は絶対的なものではなく、相対的なものだとわかります。

普段聴いている音も、脳が無意識に聴きたい音を大きく、不要な音を小さく調節しています。

聴覚に異常があると、音の調節がうまくできず、聴きたい音を、雑音が掻き消してしまうそうです。
目隠しをした状態で、常温の鉄を高温の鉄だと言われて皮膚に押し付けられると、脳が勘違いして火傷をしてしまうことがあるそうです。

熱い給湯器を冷たく感じるなど、冷たいものと熱いものを間違えた経験がありませんか。

これは、皮膚の温覚と冷覚が間違って働いたことによって起こります。

人間の五感で感じるものは、相対的なものであって、絶対的なものではありません。

アインシュタインが発見したように、時間や空間でさえ、相対的なもので、大きな質量を持つ物体の周りは、空間がねじ曲がって、時間が伸びるそうです。


この世界に存在しているものは、分解していけば、電子や陽子、中性子などの粒子になります。

さらに分解していけば、素粒子となります。

もし、人間が真実の世界を観測できるなら、視界のすべては粒子に見えて、その濃淡を感じるだけになるのではないでしょうか。

 

この宇宙のエネルギーの総量は一定です。
紙に火をつけて燃やすと、紙が消えてなくなるように見えますが、紙に酸素がくっついて、二酸化炭素と水と灰になっただけで、質量は変わっていません。

もとから全てはこの世にあって、その形を変えているだけなのです。
人間の一生も、大きなエネルギーの一部がかたちを変えているだけなのです。


私たちが認識している世界は、正しいものではないので、そのようなものに悩むことは無駄なことかもしれません。

他人の目も、自分の心も、確かなものではないので、そのような不確かなものに振り回されてはいけません。

 

霊性心が働いたときに、人間は宇宙のエネルギーを感じ取ることができます。

宇宙霊の一部である霊魂が、真実のエネルギーの世界を感じ取るのです。

エネルギーは、生まれることも消えることもなく、汚れることも清められることもなく、増えることも減ることもない不変のなものです。 

そのような不変の存在の一部である霊魂は、決してぶれることがありません。