「我々の忘却してしまったものこそ、ある存在をいちばん正しく我々に想起させるものである」
覚醒していることを意識があるといいますが、意識には自分で認識できる部分とできない部分があります。
そのうち自分で認識できる部分を顕在意識といい、認識できない部分を潜在意識といいます。
例えば、寝ているときは顕在意識はなく、潜在意識のみになります。
人間は記憶することによって、過去の経験の内容を保持して、後から思い出すことができますが、記憶は記憶している時間の長さで三つに分類されます。
一つ目は、机の上に置いている物のような、記憶してはすぐに忘れていくワーキングメモリーです。
机の上には必要な物を置いて、それが不要になったら片付けますよね。
二つ目は、机に貼り付けた付箋のように、一時的に記憶して、不要になったら忘れる短期記憶です。
後ですることを付箋にメモしておけば、忘れることがなくなります。
三つ目は、本棚に並べられた書物のように、長く記憶される長期記憶です。
書物はいつでも読み返すことができます。
短期記憶とワーキングメモリーは同じものとして扱われることがありますが、ワーキングメモリーは作業するための瞬間的な記憶で、短期記憶は計画や予定などを一時的に覚えている記憶です。
長期記憶は、パソコンでいえば、データを保存するハードディスクにあたり、ワーキングメモリーは、プログラムやデータを一時的に保存するメモリにあたります。
ハードディスクが大きくても、メモリが小さければ、一度に処理できる量が限られ、キャパをオーバーするとパソコンは固まってしまいます。
余計なことを考えていると、それにワーキングメモリーが使われてしまいます。
作業机の上を整理せずに、関係ない物まで置いているとその分作業するスペースが減ってしまい、作業効率が落ちますよね。
例えば、ワーキングメモリーの二割を別のことに使っていると、その人は八割の能力しか発揮できないことになります。
人間は、一度経験したことは思い出せないだけで、すべて記憶しているといいます。
ふとしたことをきっかけに、記憶が戻ることがありますよね。
今までに経験したことは、頭の奥底に断片的に残っているのです。
だからこそ、まだあまり記憶がない幼い頃に経験したことは、心の中に残り続け、一生涯にわたって影響を与え続けます。
忘れられた記憶は、思い出せないだけで、潜在意識の中に眠っているのです。
では、記憶は脳のどの部分に保存されているのでしょうか。
知識や出来事などの記憶は、まず大脳皮質の内側にある大脳辺縁系の海馬に短期記憶として保持されます。
その後、それが脳の表面の大脳皮質へ転送され、そこで長期記憶として貯蔵されます。
大脳皮質は人の脳といわれ、五感や言葉、思考などの高度な機能をつかさどります。
また、大脳辺縁系は馬の脳といわれ、喜怒哀楽などの感情をつかさどります。
大脳皮質は新しい脳と呼ばれ、大脳辺縁系と脳幹は古い脳と呼ばれています。
脳幹は爬虫類の脳といわれ、脳の一番奥にあり、呼吸や体温調節など生きるための基本的な役割をつかさどります。
スポーツなどの動作の記憶は、大脳辺縁系よりも内側にある大脳基底核と、後頭部の下方にある小脳に貯蔵されます。
大脳基底核が大まかな動きを、小脳が細かい動きを記憶します。
自転車の乗り始めは運転することは難しいですが、いつの間にか簡単に運転できるようになっていますよね。
それは、小脳が体の動かし方を記憶したことで、意識せずとも体が動くようになったのです。
このようなことを「体が覚えている」などと表現しますが、実際は小脳が記憶しています。
恥ずかしい思いをしたときに顔が紅潮したり、緊張したときに息が苦しくなることを、情動反応といい、闘うか逃げるか反応とも呼ばれます。
情動反応は、まず大脳辺縁系の一部である扁桃体が、何かしらの刺激を感じたときに、それが命に関わるかを一瞬で判断することから始まります。
扁桃とはアーモンドの種子ことで、それに形が似ていることから扁桃体と名付けられました。
扁桃体が刺激を不快と判断すると、大脳基底核の内側にある、間脳の視床下部から指示が出され、腎臓の上にある副腎皮質からストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールが分泌されます。
コルチゾールが過剰に分泌されると、動悸がしたり、手足が震えたり、血圧が上昇したりします。