「古の人は、学びて以て徳を己に成さんことを求む」
荻生徂徠
現代になって急増した精神の病気に、うつ病や、かつてはノイローゼといわれていた神経症があります。
最近は精神科や心療内科だけでなく、内科や循環器科などでも、頻繁に抗不安薬や睡眠薬が処方されていることが問題になっています。
うつ病や神経症が急増した原因には、文明が急激に発達したことが考えられます。
そのスピードが早すぎて、人間の体が環境の変化についていくことができないのです。
また、社会のシステムが大きく変わることで、国家のあり方や、価値観や倫理観も変わり、人間の心にも大きな負担がかかっています。
人間は他の動物と同じように、もとは自然の生き物なので、自然から離れすぎると不調が生じてしまいます。
口に入れるものも、自然の物を多く摂ったほうがいいことがわかっています。
現代は食品に保存料や着色料が使われるようになり、日常的に化学物質を口に入れるが当たり前になってしまいました。
薬品も、もちろん化学物質です。
最近では、加工食品を食べることが当たり前になっていて、原形を留めていないものを食べることが多くなっています。
原形とは、もとのありのままの形のことです、
加工食品ばかり食べることによって、体がそれに慣れてしまい、逆に自然の物をうまく吸収できずに、お腹を下してしまう人も増えているようです。
かつて、人類の労働の中心部が農業だった頃は、人類は集落の中で助け合って生きてきました。
しかし文明が発達すると、周りの人と助け合う必要性が減ったので、個人のプライバシーを優先するようになりました。
そのため、かつては助け合っていたはずの近隣住民とのトラブル増えています。
地域の中で助け合うという習慣がなくなると、子どもを持つ親は、他人に頼る事なく、自分たちだけで子どもを育てなければなりません、
すると、どうしても利己的に物事を考えるようになり、個人を尊重する風潮はより強くなっていきます。
精神の病気が増えた原因の一つに、教育の問題があります。
幼い頃に受ける教育は、印象強く心に残るので、とても重要です。
もし間違った教育を受ければ、間違った価値観が心に植え付けられてしまいます。
現代の日本の義務教育には違和感を感じます。
日本には多くの寺や神社がありますが、その違いを知らない人が大勢います。
数学の連立方程式よりも、まずはその違いを教えることが先ではないでしょうか。
形式的ではない、日本の血の通った歴史を知るためには、神道と仏教は欠かせません。
社会の授業で習う日本の歴史では、日本の精神は血肉とはなっていかないのです。
アメリカ人は、誰もがキリスト教を知っていますが、同じように日本人は神道を知っているでしょうか。
第二次世界大戦の敗戦国である日本は、GHQによって教育のあり方を変えられてしまいました。
本来、戦勝国が敗戦国の憲法をつくったり、相手国の歴史を消したり、書物に発行禁止処分を与えたり、特定の書籍の所持を禁止したりすることは国際法上許されません。
相手国の民族や文化を踏みにじる行為は、絶対に許されない蛮行です。
なのに「自由と平和」を標榜するアメリカは、それを平然と行ないました。
国家神道は廃止され、日本の歴史や伝統の正統性を教育できないようにしてしまったのです。
日本のことを弱体化させようとして、儒教などの道徳教育を禁止して、優れた人物ができないように手が加えられてしまいました。
現在の教育もまだその影響を引きずっているように思われます。
江戸時代には、儒学などの道徳教育が当たり前に行われていました。
しかし、私が子どもの頃に受けた道徳の授業で覚えているのは、戦争やいじめ、差別はいけないということくらいです。
道とはこの宇宙の真理を実践することです。
また、徳とは人間の本質のことをいいます。
言い換えるなら、いかに霊性心を多く発揮できるかということです。
その二つを合わせたのものが道徳なのです。
戦争の悲惨さや、いじめや差別がいけないことを学ぶことも重要ですが、それは枝葉末節のことであり、道徳の根幹ではありません。
義務教育の授業の一コマで論語などを学べば、日本人のモラルはかなり回復するのではないでしょうか。
二次世界大戦の頃は、日本は軍部が暴走をして異常な状態になっていました。
頭山満も中村天風も安岡正篤も、第二次世界大戦には反対をしていました。
皇族であり軍人でもある東久邇宮稔彦王は、日中戦争が拡大して米英との戦争になることを防ぐために、日中関係の和平会談を蒋介石とするように頭山満に依頼しました。
頭山満は辛亥革命を行った孫文を支援したので、その側近をしていた蒋介石は頭山満のことを慕っていたのです。
蒋介石からも「頭山翁だけとなら会いましょう」と前向きな返事を受け取っていましたが、新しく首相に就任した東條英機に「勝手なことをしてもらっては困る」と妨害され、会談は幻となってしまいました。
その頃の日本は、中道を失っていたのです。
そうなってしまったのは、欧米諸国に追いつくために、道徳教育をおろそかにしたことが一番の原因だと考えられます。
間違った教育と洗脳は紙一重です。
間違った教育を受ければ、間違った価値観がつくられ、誰かの都合の良い駒にされてしまうかもしれません。
そして、そのことに自分では気づくことができないのです。
ヒトラー政権下のドイツの学校では、ヒトラーを崇拝させるための洗脳が行われていました。
それで子どもたちはヒトラーを神格化し、戦争に行くことを誇りとしていたのです。
人間の価値観は環境と教育によって、大部分が形成されます。
ヒトラー政権下のドイツのように、異常な環境に置かれ、教育によって間違った情報を繰り返し与えられれば、価値観は簡単に刷り込まれます。
教育は、人間の人生観を決定する儒教なものなのです。
現代の日本の教育は、人格を形成していくための教育ではなく、機械的な技術を学ぶための教育になっています。
言い換えるなら、社会に出てお金を稼ぐための教育です。
だからこそ、私たちは自ら書物を読んで、先人たちの言葉や生き方から、しっかりと自分の価値観を形成しなければならないのです。