照心洗心録

安岡正篤、中村天風などから学んだことをまとめています。

33.顕在意識の積極化

「今日一日、怒らず、恐れず、悲しまず、正直、親切、愉快に生きよ」

中村天風

 

この世界に存在する万物は、この宇宙の始まりのエネルギーからつくられていて、見た目の形は変わっても、エネルギー自体はまったく変わってません。

増えもしなければ減ることもなく、汚れることもなければ清められることもありません。

しかし、人間は自分が感じたものに判断を加え、勝手に色をつけてしまいます。

その結果、心にさまざまなものが映し出されるのです。

 

この世のすべては同じ一つの気でできており、その気の動きである心は無色透明ですが、人間の感情によってさまざまな色に染まります。

水は無色透明ですが、太陽の光が当たると空の青さを映して青く染まります。

しかし、陽が沈んで夜になると、海は真っ黒に見えます。
心も積極的な気持ちを失い、消去的になってしまうと、暗く染まってしまうのです。

 

人の声は実際はただの空気の振動ですが、それを消極的に受け取れば、心は濁ってしまいます。

それは自分に向かって飛んできているボールに、避けることができるのに、あえて当たりに行くようなものです。
ただの空気の振動に意味を与え、心を濁らせているのは自分自身なのです。

他人に何を言われようと、事実はただ空気が振動しているだけです。

歩いているときに、他人と肩がぶつかると嫌な気分になりますが、事実はただ物体同士がぶつかっただけで、それに意味を持たせているのは自分自身です。

他人とは体がぶつかることはありますが、心がぶつかることはありません。

それは、体がぶつかったことで、自分で心を動かしているのです。

自分の心を濁らせるのは、自分だけだということを忘れないようにして、自分の心と体を客観的に観察するようにしましょう。

何が起こっても、それは心と体の問題であり、死なない限り、霊魂は変わらないままなのです。

 

心を濁らせる原因は、本能心か理性心のどちらかにあります。
体由来の本能心は、体を守るために働いています。

また心由来の理性心は、物事の正誤や善悪を判断して、本能心を抑えるために働いています。

日頃から、自分の心で働いているのは、本能心なのか、理性心なのか、どちらなのか意識していれば、心に振り回されることが少なくなります。

「今痛みを感じているのは、体を守るために本能心が働いてるんだ」と思えば、少しは冷静でいられるかもしれません。

 

かつて人間が弱肉強食の世界で生きていたとき必要だった、強い怒りや妬み、猜疑心などは現代では不要になっています。

これらのことを不要残留本能心といい、意識のうえに浮かべていると、心が消極的になってしまい、人間のエネルギーを奪ってしまいます。

不要残留本能心が意識のうえに登ってきたら、心を整理して、すぐに消すようにしましょう。


心に雑念があると霊性心は隠されてしまい、宇宙からエネルギーを受け取る分量が減ってしまいます。

眠ることによって、心身が回復するのは、霊性心が雑念に邪魔されることなく働いて、宇宙からエネルギーを多く受け取っているからなのです。

人間以外の動物も寝ているときは霊性心が働きますが、しかし理性心がないため、起きているときは本能心が抑えられず、霊性心を働かせることができません。

 

自分は消極的になっていないか。

本能心や理性心にふりまわされていないか。

常に自分の心を観察するようにしましょう。

 

霊性心を発揮するためには、普段から私たちが感じている顕在意識を積極化させ、意識の外に雑念を押しやらなくてはなりません。

そのための実践方法をみていきましょう。

 

一つ目は内省検討です。

自分自身の考えや行動、心の状態を客観的に観察して、消極的になってないかどうか調べます。

もし消極的になっていたら、直ちに心を積極的に変えるよう努めましょう。

今の自分の心の状態に気づく習慣をつけることが、とても重要になります。

なぜなら、その習慣があれば、消極的になったとき、すぐに改めることができるからです。

怒りや恐怖、悲しみに心を奪われないように気をつけましょう。

 

二つ目は暗示の分析です。

他人の話を聞いていたら、いつの間にか心が消極的になってしまうことがありませんか。

たとえ悪気がなかったとしても、消極的な感情から発せられた言葉は、それを聞いた人の心を消極的にほうに引っ張っていきます。

消極的な言葉から発せられた言葉は、表面的にはそうでなくても、消極的な想いが暗に示されているのです。

人には、暗示を受け取る能力があります。

だから、落ち込んでいる人と一緒にいれば、いつの間にか周りにいる人も暗くなっていくのです。

逆に、積極的な人と一緒にいれば、周りの人も積極的になっていきます。

幼稚園などで誰かが泣き出すと、つられて周りの子が泣き出すのは、人には同化作用があるからなのです。

だから、誰かの言動を受け取る時は、そこに消極的な感情が暗示されていないか確認しましょう。

もしそれが消極的なものならば、消極的なほうに引っ張られないように気をつけましょう。

 

三つ目は交人態度です。

人と交わるときは、積極的な態度で接するように意識しましょう。

自分が積極的な態度なら、相手も積極的なほうに引っ張られ、さらに自分もそれに引っ張られるという相乗効果が生まれます。

積極的な心と消極的な心は、同時に存在することができません。

だから、積極的な態度で人と交わり、周りを積極的に変えていきましょう。

そうすることは、結局自分のためにもなるのです。

 

四つ目は苦労厳禁です。

目の前のことに頭を悩ませるならまだ仕方ないですが、もう起きたことや、未来のことを心配して、心を煩わせてないでしょうか。

悩んでいても過去は変わりません。

また、未来のことを心配しても、不安になるだけで、結局なるようにしかなりません。

今起きていることに関しても、必要以上に頭を悩ませて、無駄な苦労をしないようにしましょう。

特に心配性な人は、将来のことを心配しやすいので、取り越し苦労厳禁を心がけましょう。

心配は百害あって一利なしです。

 

五つ目は正義の実行です。

「こんなことしないほうがいいのに」と後ろめたさを感じながら行動すると、心は消極的なほうに引っ張られてしまいます。

そして、それが習慣になると、心は堕落していき、人間が駄目になっていきます。

心に後ろめたさを感じないように、自分が正しいと思うことをしましょう。

お天道様に顔向けできないようなことはしないようにしましょう。

儒教経書の一つである「大学」には、「君子は必ずその独りを慎むなり、小人閑居して不善を為す。至らざる所なし」とあります。

徳のある人は独りでいるとき、必ず慎み深くしますが、徳のない人は他人の目がないと悪いことをしだして、そこには限度がありません。

また「大学」には、「その意を誠にすとは、自らを欺くことなきなり」とあります。

自分の意思を誠実にするということは、自分で自分を欺かないということなのです。

宇宙の心である真善美を思い出して、正直、親切、愉快に生きましょう。

 

人間は生まれる前は何も持っていなかったし、死んだらすべて無くなります。

そう考えれば失敗したとしても、失うものはありません。

人間はたくさん物を持ちたがりますが、死ぬときは、寝転ぶことができる場所と食べる物と着る物が少しあればいいのです。

だから、あとはおまけのようなもので、すべて欲にすぎません。

人生を楽しむ心があれば、他に必要な物はあまりないのです。

生きることに喜びと感謝を持つことを忘れずに、これら五つを日々心がけて、積極観念を養成していきましょう。

 

おすすめ書籍

中村天風「幸福なる人生」