照心洗心録

安岡正篤、中村天風などから学んだことをまとめています。

40.心の使い方

「事を成し遂げる秘訣は、ただ一つの事に集中することにある」

エイブラハム・リンカーン

 

心の中に雑念があると、自分の能力をフルに使って物事に取り組むことができません。
頭の中の作業台であるワーキングメモリーを雑念で埋めてしまったら、作業の効率は落ちてしまいます。

ワーキングメモリーの四割が雑念で埋まっていたら、六割の能力しか発揮できないことになります。

つまり、雑念を浮かべて生きていると、自分の価値を落としてしまうのです。
何をするにしても、一意専心で物事に取り組みましょう。

カメラを撮るときのように、心のピントを今からすることに合わせて、気を打ち込んでするようにしましょう。

 

おっちょこちょいとか、ドジとかいわれる人は、一人のときできることが、周りに人がいるとできなくなります。

その理由は、周りに人がいると、ワーキングメモリーが緊張や焦りで埋まってしまい、精神を集中して使うことができなくなるからです。

こういう場合、その人の能力が低い訳ではなく、心の使い方に問題があるのです。

つまり、気が散ってしまっていて、行為に気が打ち込まれていないのです。

 

発達障害の一つの注意欠陥・多動性障害では、衝動性、多動性、不注意がみられます。

意識を何かに集中させると、次すべきことに意識を上手く移せないので、どうしても不注意になってしまうのです。

例えば、ズボンにシャツを入れ忘れたり、忘れ物を繰り返します。

また、意識を上手く移せないので、遅刻をしたり、怠惰に休日を過ごしてしまいます。

一度意識を集中させると、それに強くこだわるので、衝動的に行動してしまいます。

例えば、人の話を遮って喋り出したり、話がいきなり飛んだりするのです。

幼い頃は、興味のないことには集中できず、じっとしていられないので、多動性がみられます。

これらのことを改善するには、意識して心をうまく使うしかなく、すること一つひとつに気を打ち込んでいくしかありません。

ヴィッパッサナー瞑想をするときのように、一つひとつ頭の中で確認しながら、ゆっくりと意識を移していくしかないのです。

 

文字を書くときも、気が散った状態で書くと、読みづらい散らかった文字になってしまいます。

人間の想像は具現化するので、どんな文字を書くかイメージしてから、それをなぞるように書けば上手く書けます。

文字に性格が表れるといわれるのは、文字はその人自身の思考の表れだからなのです。

絵を描くときも、考えなしに絵を描き始めると上手くいきませんが、頭の中でイメージ作ってから描き始めると上手くいくはずです。

 

ワーキングメモリーの上にあらわれ、邪魔をしてくる雑念には、さまざまな種類のものがあります。
本能心から生じるものには、焦りや緊張、不安、恐怖、欲求不満、妄想、妬み、執着などがあり、理性心から生じるものには、後悔や罪悪感、葛藤、煩悶などがあります。

正確には、葛藤や煩悶は、本能心と理性心がせめぎ合うことで生じます。

例えば、「嘘をついて責任から逃れたい」という本能と、「嘘はつくべきではない」という理性がせめぎ合うことで、心に悶えが生じてしまうのです。


物質的なものを優先する物質主義者は、本能心から雑念が生じやすく、精神的なものを優先する精神主義者には、理性心から雑念が生じやすくなります。

どちらも雑念に悩まされることは変わりありませんが、精神主義者は理性と本能による葛藤に悩まされるので、神経衰弱やノイローゼになりやすい傾向があります。

物質主義者は本能心だけがストレスの原因になりますが、精神主義者は本能心も理性心もストレスを受けることになるのです。

だから精神主義者より、物質主義者のほうが悩みは少なくなります。

しかし、ここでも重要なのは、陰と陽のバランスなので、どちらかに偏りすぎないようにしましょう。

 

価値観は、時代と共に変わっていき、善悪の基準は絶対的なものではありません。

また、個人で考えてみても、歳をとって知識や知識が豊富になると、善悪の基準は変わっていきます。

だから、理性とは相対的なものであり、ある人にとって正しいことが、他の人にとっては悪いことになるかもしれないのです。

しかし、宇宙真理は絶対的なものであり、人によって答えが変わることはありません。

例えば、他国に攻め入ることの善悪は時代によって変わりますが、陰陽相対(待)性原理は決して変わりません。

同じように、理性心と本能心はその時々で答えが変わりますが、霊性心は決して変わることがありません。

だから霊性心で生きることができれば、迷いや悩みは消えていきます。

 

霊性心は、主に潜在意識の中にあるので、なるべく潜在意識を普段から使うようにしましょう。

潜在意識を使って生きることができれば、顕在意識を煩わせないので、疲れが軽くなります。

潜在意識を使うというのは、特別に意識せず何かをするということです。

例えば、車の運転も慣れてしまえば、特に意識しないでも乗れるようになるので、乗り始めの頃に比べと、運転の疲れは軽くなります。

何かを顕在意識のうえに浮かべていると、知らず知らずのうちに脳は疲れていくのです。

 

何かをするときは、雑念を消して、心を集中して一つのことに打ち込むようにしましょう。

そして、雑念が生じやすい顕在意識を使わずに、なるべく霊性心のある潜在意識を使いましょう。

以上の二つが、心を上手く使うコツになります。

人類の偉業はすべて心によって達成されていて、人の心とはとても優れたものです。

しかし、どれほど優れたものであっても、使い方を間違えれば、その真価を発揮することができません。

心をどこに置いて、どう使うか、普段から意識するようにしましょう。