「一度だけの人生だ。だから今この時だけを考えろ。過去は及ばず、未来は知れず。死んでからのことは宗教にまかせろ」
顕在意識の積極化、神経の安定化、潜在意識の積極化の三つは、中村天風の心身統一法の三本柱を簡単に説明したものです。
正式名称は、積極観念の養成、神経反射の調節、観念要素の更改になります。
心身統一法は人生を幸福に生きていくために、六つの力と感応性能を強くすることを目的に組み立てられました。
心身統一法の六つの力とは、体力、胆力、判断力、断行力、精力、能力のことです。
胆力とは物事に動じない力のことで、逆境においても冷静でいられる心の強さになります。
精力とは粘り強さのことで、困難に屈しない強さを示します。
能力は実際に何かを行う才能のことで、例えば、絵を描いたり、料理をしたり、計画を立てたりすることなどが当てはまります。
感応性能とは文字通り、感じて応答する人間の性能のことです。
感応性能が弱いと、何か刺激が感じたときに心が過敏に反応してしまい、消極的になってしまいます。
感応性能が強ければ、強い衝撃があっても心を冷静に保っていられるのです。
胆力と似ていますが、胆力は刺激を受けたときに、それに負けまいとする心の強さをあらわすのに対し、感応性能は刺激を受けたときの、心の揺れ幅をあらわします。
なので、感応性能を強化すれば、心の動揺が少なくなるのです。
例えるなら、感応性能が怪我をしたときの痛みの感じ方で、胆力がその痛みに耐える強さです。
感応性能を強くすることが、心を安定させることに繋がります。
幸福に生きていくための理想論は数多く存在しますが、それらは綺麗事が並べてあるだけで、具体的な方法が示されていません。
そのようなことが書かれている書物を読むと、その時は偉くなった気分になれますが、実際は偉くなっていません。
人は概念などの表面的なものでは、決して変わることができないのです。
生活や習慣など根本から見直さなければなりません。
心身統一法には、実際にやるべきことが具体的に示されているので、それを習慣化すれば、自分をつくり変えていくことができます。
心身統一法は、中村天風が結核になったことが原因で組み立てられました。
中村天風は、幼い頃から人一倍強い心を持っていて、他国で密偵として働いている時、実際に死を目前にしても、恐怖を感じないほどでした。
しかし、進行の早い結核になってから、死の恐怖にとらわれて、心が弱くなっていきました。
頼もしかった自分の心が弱くなったことを許せず、せめて死ぬ前に、強い心を取り戻したいと思い、その方法を探すために、世界へ旅に出ました。
しかし結局、それを掴むことはできず、諦めて日本に帰ろうとした時、あるヨガの聖者と出会います。
そして、その人のもとで修行することで、ついには強い心を取り戻し、結核を克服しました。
だから、心身統一法は幸福に人生を生きるための方法であり、心を強くする方法でもあるのです。
幸福に生きるためには、物質面と精神面どちらかに偏ってはいけません。
現代社会で生きていると、どうしても物質方面に偏ってしまいますが、幸福に生きるためには、まずは精神面が重要になります。
体がどれほど強くても、心が弱ければ、運命における困難や健康上に起こる問題を乗り越えていくことができません。
目的地に向かって歩き出せば、方向さえ間違えなければ、いつかは目的地に辿り着きます。
それと同じで、自分の目標を定め、正しい方法で日々努力すれば、必ず目標は達せられます。
目的地を決めた時点で、目的地に着くことは決定しているように、目標を定めた時点で目標を達成することは決まっています。
必ずやり遂げるという意志があるなら、その時点で目標は達成されているのです。
重要なのは、正しい方法で継続することです。
「おれの心は強くなる」と目標を定め、心身統一法を習慣化して継続すれば、必ずしも心は強くなるのです。
中村天風が結核を治療していくうえで、ターニングポイントになったのは、聖者との問答によって生きることの喜びと感謝に気づいたことでした。
まだ自分は死んでいない。
そして、それは最も幸せなことだ。
結核の苦しみがそれに気づかせてくれた。
人生において一番大切なことは、喜びと感謝を持って生きることです。
喜びと感謝からは、消極的な心は生まれてきません。
そこから生じる積極的な精神が、人生を進歩向上させていくのです。
心に消極的な暗い思考をさせてはいけません。
そして、その消極的な思考で心を汚してしまってはいけません。
心身統一法を実践して、積極的な精神で心を照らし、内省検討や観念要素の更改で心を洗っていきましょう。