照心洗心録

安岡正篤、中村天風などから学んだことをまとめています。

30. 病と病気

 「百病はみな気より生ず。病とは気病むなり、ゆえに養生の道は気を調ふるにあり」

貝原益軒

 

病気という文字は、病(やまい)と気という漢字を合わせてできています。

つまり、気を病むと書くことで病気になるのです。

体の不調を病、心の不調を病気として分けて考えてみましょう。


風邪をひいて熱が出て、体がだるくなるのが病で、それが原因で消極的なことばかり考えてしまうのが病気です。

転倒して骨折して、体が痛むのが病で、それが原因で職場に行きたくなくなるのが病気です。

 

人間の脳内には神経伝達物質という情報伝達を介在する物質があり、その中のセロトニンには心を安定させる作用があります。

しかし、人間はストレスを感じると、脳幹にあるセロトニン神経が抑制され、セロトニンの分泌が減ってしまいます。

すると、心は不安定になってしまいます。

この状態に病と病気を当てはめて考えてみると、脳内のセロトニンが減っている状態は、体に起こった異常なので病になります。

そして、脳内のセロトニンが減ったことにより、心が消極的な状態になってしまうのが病気です。

セロトニンが減ることで心は不安定になりますが、それに振り回されなければ、病気にはなりません。

体に病があろうと、心がそれを相手にしなければ病気にはならないのです。

 

人間の心と体は、密接に関係し合っています。

陰陽であらわせば、体が表面にある陽であり、心が内側にある陰になります。

そして陰陽である心と体を生んだのが、太極である霊魂です。

精子卵子が受精すると、体に血液を送る心臓よりも先に、心の活動をつかさどる脳がつくられます。

人間にとって根幹になるのが心で、枝葉にあたるのが体なのです。


体が異常を感じれば、心にそれが神経を通して伝えられ、心は痛みを感じます。

逆に心がストレスを感じ続ければ、それは神経を通じて体に伝えられ、体に不調が生じます。

心が原因になって、体にさまざまな不調が生じる症状を心身症といいます。

ストレスが原因で、胃酸が出すぎることで胃潰瘍になったり、腸が過敏になって腹痛や下痢が起こる過敏性腸症候群になったりします。

頭痛、腰痛、動悸、めまい、過呼吸心身症の症状は多岐にわたります。
原因がはっきりしないまま、いつまでもストレスが解消されないと、体がストレスの原因を別に作り出してしまうのです。

心は検査できないので、心身症による腰痛やめまいは検査をしても原因がはっきりしません。

そのため不調の原因を解明しようとして、いくつもの病院を渡り歩くドクターショッピングをする人が生まれます。

 

医薬品は物質なので、物質である体にしか影響を及ぼしません。

医薬品が心の不調に効果があるように感じるのは、体の状態が改善したことによる結果なのです。

精神科の薬は、脳内の神経伝達物質の働きを改善します。
抗うつ剤は脳内のセロトニンの量を増やし、心を安定させますが、心そのものを改善させるわけではありません。

だから、抗うつ剤うつ病の根本的な解決には繋がりません。

なぜなら、うつ病の原因は心の使い方に問題があるからで、それを解決しないかぎり、いずれまたセロトニンの量は減っていくからです。

医薬品は、心を直接的に変えることはできません。

抗うつ剤を飲んで症状が落ち着いても、心をつくり変えていないと、薬をやめたときに、また症状が再燃してしまう可能性があります。
身内との死別や癌の告知を受けるなど、一過性の強いストレスでうつ病になった場合は、時間が経てばその事実を受け入れ、心の問題はいずれ解決していくでしょう。

抗うつ剤を飲めば、うつの重症化を防ぎ、早く健康な状態へ戻ることができます。
しかし性格や考え方などが原因で、うつ病が発症した場合、薬を飲むだけではうつ病が完治することはありません。

なぜなら、薬は心の問題を解決してくれないからです。

抗うつ薬が脳内のセロトニンを増やしても、心の問題がまたセロトニンを減らしていきます。

医薬品は体の不調には直接的な効果がありますが、心の不調には直接的な効果はありません。

医薬品で心の不調が治ったようにみえるのは、体の不調が治ったことにより、間接的に心の状態が改善されたからです。


高血圧や、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病も、医薬品を飲むだけでは完治しません。

生活習慣病は心の病気ではなく体の病ですが、心を入れ替えないかぎり、病はまた生じます。
なぜなら、医薬品は体に作用し、血圧や血糖値、コレステロールなどの値は下げてくれますが、生活習慣までは改善してくれないからです。

薬を飲んでいれば、状態は改善されていきますが、薬を止めれば、また状態は悪化していきます。

血圧やコレステロールの薬は、「一度飲み出したらやめられない」と言われますが、それはこのような理由があるのです。
生活習慣がさらに悪化したり、高齢になって体の機能が落ちてくると、さらに薬の量を増やすことになるかもしれません。
医薬品には心を改善させることはできません。

 

人間の根幹は心なので、まずは体より心が重要になります。

だから、体に病があっても、心まで病ませてはいけません。

「病は気から」というように、大切なのは心の持ちようなのです。

心が病を相手にしないかぎり、心は病気にはなりません。

どんな時も、自分の心が消極的になっていないか気をつけるようにしましょう。