照心洗心録

安岡正篤、中村天風などから学んだことをまとめています。

15.霊性心

「天の道は利して害せず、聖人の道は為して争わず」

老子

 

霊性心は、人類だけが持っている心です。

しかし、本能心や理性心が働いているときは、霊性心は働かないので、その存在を感じることは容易ではありません。

 

私たちが生きていくうえで考えなくてはならないのが、本能心と理性心と霊性心の関係です。

現実の世界の体、心、霊魂が、精神の世界の本能心、理性心、霊性心とそれぞれ対応しています。

普段、意識の上にあらわれるのは本能心か理性心で、霊性心は、本能心と理性心が働いていないときしかあらわれません。

では、本能心と理性心を働かせないためには、どうすればいいのでしょうか。

その答えは、何も考えずに頭を空っぽにすればいいのです。

イライラしたり、妄想したり、何か心配をしたり、悩んだりしていると霊性心はあらわてきません。

何も考えず、何も想像しないことを無念無想といいます。
無念無想の境地に達するために、仏教徒たちは厳しい修行をして、坐禅を組んで瞑想をします。

そして心が波一つたたず、空を映す湖の水面のようになったとき、霊性心があらわれ、霊魂は宇宙霊と同調します。

そのとき自分という個の感覚は消え、宇宙の大きなエネルギーが自分の中に入ってくるのです。

 

人間の霊魂が宇宙霊の一部であるように、霊性心は個人の心ではなく宇宙の心です。

宇宙霊は万物を創造、化育し、分け隔てなく進歩向上させていきます。

霊性心からは、意志や勇気、思いやりなどが生まれ、他には人間の直感力を高めてくれます。

霊性心を発揮することができるのは、万物の霊長といわれる人類だけです。


日常の生活の中でも、霊性心はふとしたときにあらわます。

犬や猫などのかわいい動物を見た時に、考えるより先に微笑んでいることはないでしょうか。

転んでしまいそうな子どもを見つけたら、無意識のうちに助けてあげると思います。

このような、本能や理性で考えるより先に行動しているとき、実は霊性心が発揮されています。

生死をさまようほどの壮絶な体験をすると、霊感を宿すことがあるといいますが、それは本能心や理性心ではその体験を処理できなかったため、霊性心が活発に働いた結果かもしれません。

霊感とは鋭い直感力のことで、幽霊が見えるみたいなオカルトなものではありません。

良くないことが起こりそうだと感じることを、虫の知らせといいますが、そのようなものを察知できる直感力を霊感といいます。

 

生死をさまよった人間は、自分を個ではなく、全体の一部として捉えることができるようになります。

西郷隆盛がまさにそうで、西郷は、友人で僧侶の月照を船上で斬らなければならなくなったとき、共に海に入り死ぬことを決意しました。

そして、共に自殺をはかった西郷と月照ですが、西郷は死ぬことは叶わず、生き延びることになりました。

月照はこのとき命を落としてしまいます。

西郷はこのとき死ぬつもりだったので、これからの人生は天からもらったものだと考えて、他人のために使うと決めます。

その後西郷は自分の身を顧みず、明治維新のために命懸けで行動し、明治維新後も自らの命をもって、最後の武士の反乱を終わらせました。

個という概念がなくなれば、全の一部となって、自分の命へのこだわりがなくなるのかもしれません。

 

心の世界を考えるとき、本能心は動物、理性心は人に例えることができます。

イライラしているときは、心の中の動物を暴れているときで、神経質になっているときは、心の中の人が過敏になっているときです。

なので、自分の心の中の動物をよく手懐け、人を落ち着かせないといけません。

そして、心の中の人と動物が衝突しないように気をつけましょう。

 

心を扱ううえで重要なことは、霊性心を多く発揮することです。

なぜなら、霊性心が発揮されると、霊魂が宇宙霊と繋がることができて、普段は眠っている潜勢力があらわれるからです。

これまでに偉大な発明をした人たちは、潜勢力を使って、それらができる前から考えると、想像もつかないほどの驚くべきものを作り出しました。

「空を飛びたい」と願って飛行機を作り出し、「遠く離れた人と話したい」と願って電話を作り出し、「宇宙に行きたい」と願って宇宙船を作り出しました。

人が何かを作り出すことは、宇宙が何かを創造することに似ています。

人間に眠っていた潜勢力が、強い意志によって呼び起こされたのです。

 

霊性心は、意志や勇気を生み出します。

私欲でなく何かを成し遂げようとする精神の働きや、危険や困難を恐れず積極的に向かっていく心は、本能心や理性心からは生まれません。

霊性心を発揮するためには本能心を抑えることが必要なので、そのために理性心が生まれ、本能心をコントロールするようになったのかもしれません。

 

無心で何かに打ち込んでいるときは、霊性心が発揮されるので、驚くほど成果が上がります。

さらに、霊性心が発揮されていると、本能心や理性心が煩わされることがないので、疲れやストレスが軽減されます。

好きなことに集中しているときは、なかなか疲れませんよね。

心の中に雑念があると、霊性心はあらわれないので、自分が本来持っている力が発揮できなくなります。

普段、人間が使っている脳の機能は二割にも満たないそうです。

 

人類の発明をみれば、人類には特別な能力が与えられていることがわかります。

霊性心を発揮することによって、人間は宇宙の創造の力を使うことができるのです。

人類は創造の力によって文明を発達させ、地球の環境を大きく変えてきました。

それは、宇宙が人類の心に広大な世界を開き、霊性心を発揮できるようになったから、可能になったのです。
しかし、そのような素晴らしい心も使い方を間違えれば、弊害をもたらすことになってしまいます。

本能に身を任せたり、理性で無理に本能を抑えすぎると、精神がおかしくなっていってしまいます。

人形に結ばれた本能心、理性心、霊性心という三つの糸を自在に操って、自分に与えられた力を発揮していきましょう。