照心洗心録

安岡正篤、中村天風などから学んだことをまとめています。

24. 人間と植物

「自然を深く観察しなさい、そうすればすべてのことがよく理解できるようになるでしょう」

アルベルト・アインシュタイン

 

植物がエネルギーを生み出すためには、水と日光と二酸化炭素が必要です。

また土壌から栄養素を取り込むことも、成長するために必要になります。

栄養素には、葉を育てる窒素、花や実を成長させるリン、根や茎を丈夫にするカリウムなどがあります。

また、植物には数多くの種類があり、それぞれの植物にあった育て方をしなければいけません。

自宅で育てる場合、寒さに弱い植物は、冬になったら屋内に入れてあげないといけません。

また、湿気に弱い植物は、梅雨前に枝の数を減らしたり、季節によってあげる水の量を変えなければいけません。

植物が成長していくためには、適した環境が必要なのです。


自然界では、環境に適していない生物は生き残れません。

これを、適者生存の法則といいます。

生き残った生物は、より環境に適応するために徐々に進化していきます。

だから野生の植物は、自分に適した環境にしか生息していません。

海外など違う環境で育った植物を育てる場合や、季節外れの果実を収穫する場合、ビニールハウスなどで人為的に環境を調節してあげる必要があります。


人間も植物と同じように、それぞれにあった環境があるのではないでしょうか。

呼吸や食事、睡眠、排泄は生きていくために必須のものですが、それ以外にも、自分の力を発揮するためには、それぞれにあった環境が必要です。
大雑把な人には、細かい作業は向いていません。

また、臆病な人に大胆な行動を求めてもうまくいきません。
少し環境を変えるだけで、驚くほど成果を上げる人もいるかもしれません。

その人に適した地位や仕事に就けることを、適材適所といいます。

 

数百年前までは、人類は自然の中で生きていくことが当たり前でした。

しかし現代では、自然から離れて生活をするようになってしまいした。

周りの物を見てみると、植物以外のほとんどの物が人によって作られた物であることがわかります。

朝自宅から車で会社に通勤して、日中会社内で働き、車で自宅に帰って寝る。

そんな生活をしている人もいるはずです。
植物が人間によって、日当たりの悪いベランダのプランターに移されるように、現代人も自然から離され、人工物に囲まれた中で生活しなければならなくなったのです。


ここ数十年で人類を取り巻く環境は、急激に変化しています。

人類が新しい環境に適応していくのを待たずにに、文明は恐るべきスピードで発展を続けています。

人間も植物と同様に、本来は自然の中で生きるものです。

それを強引に自然から離してしまえば、さまざまな異常が生じてくるのは当然です。
かつては、神経症は贅沢病といわれていて、贅沢な暮らしをする人がなる病気でした。

それが現代では、誰もが神経症になる可能性のある社会になっています。

神経症は、以前はノイローゼと呼ばれていたストレスによって生じる心の病気です。

それはまさに、人類が豊かになった代償といえるでしょう。


人類はこれから自然に触れ合う時間を増やしていかなくてはなりません。

子どもは室内でテレビゲームをするより、外で泥だらけになって遊ぶべきです。

人間は食物からだけでなく、空気や太陽の光、土壌や水などからもエネルギーを得ることができます。

人間は太陽の紫外線を浴びないと皮膚で作られるプロビタミンDが、ビタミンDに変わりません。

ビタミンDが不足すると、骨が脆くなってしまいます。

また、土の上を裸足で歩くだけで、健康状態が改善されることがあるそうです。

 

 

屋内で育てている植物を急に屋外に出すと、日光に負けて葉が枯れてしまうことがあります。

葉焼けといって、人間でいう火傷のようなものです。

同じ株から育てた植物でも、屋外で育てた植物は直射日光に耐えられますが、屋内で育てた植物は直射日光に耐えられなくなります。

人間も同じように、清潔すぎる環境で育つと免疫力が高められず、アレルギー体質や虚弱体質になってしまうことがあります。

最初に生まれた子どもは、手がかけて育てられることが多いので、アレルギー体質になる割合が高いそうです。

子どもは手をかけて育てるより、自由に外で遊ばせるほうが免疫力が高められるのです。

 

生物には環境に適応していく能力があります。

ストレスを受け続ければ、そのストレスに徐々に慣れていくのです。

逆に、ストレスのない環境で育った生物は、生命力が強くならず、すぐに死んでしまいます。

なので、適度なストレスは生きていくうえで必要ですが、過度なストレスは禁物です。

屋内で育てた植物を屋外に出すと葉焼けしてしまうように、何年もひきこもっていた人が突然社会に出て働き出せば、体調を崩してしまうかもしれません。

植物を少しずつ日光に慣れさせるように、少しずつストレスに慣れていくことが重要です。

 

神経症の一つであるパニック障害は、予期しない突然の強い恐怖や不快感が生じるパニック発作を繰り返す病気です。

パニック障害になると、また発作が起こるのではないかという予期不安が起こり、行動範囲が狭まってしまいます。

それを克服するためには、発作が起こりえる状況に自ら近づいていき、少しずつその状況に慣れていくしかありません。

一歩ずつでも進んでいけば、いつか必ずゴールに辿り着くことができます。

一歩先さえ見えていれば、どこまでだって行けるのです。
急いで近道をするよりも、ゆっくり遠回りするほうが、結局は近道になることもあります。

 

社会の福祉が充実すると、人間は弱くなっていきます。

甘やかされた環境で育ったペットは、野生に戻って生きていくのが困難なように、人間は楽な環境に居続けると、どうしても堕落していってしまうのです。

何の義務も果たさず、ただ生きているだけだと、人間は腐っていってしまいます。

本来、権利は義務を果たした者だけに与えられるものです。

福祉が充実した国ほど自殺率は増え、原始的な生活をする国ほど自殺は少ないそうです。

過酷な環境の中で、生物は強くなっていきます。

 

過度に平等が求められる社会になり、出る杭は打たれる時代になってしまいました。

しかし、それでは個性が失われていき、多様性がなくなってしまいます。

すると、人間の進歩向上が止まってしまいます。

自由で平等な社会を求めることは素晴らしいことですが、それがエスカレートしすぎると、逆が自由が失われてしまい、生きづらい世の中になってしまいます。

どんなことでもバランスが重要なので、極端すぎるのはいけません。

 

植物が成長するためには、根をしっかりと張ることが重要です。

日光不足や水や肥料のやり過ぎが原因で、根が育つ前に茎が早く伸びてしまうと、植物は正しく成長できなくなってしまいます。

人間も植物と同じように、まずは心の土台を作らないといけません。

土台がなければ、建物を建てることはできないし、土台がしっかりしていないと、すぐに建物は倒壊してしまいます。
現代人は果実をつけることに必死になって、根幹がおろそかになっています。

技術的な学びは足りていますが、土台となる人間学が不十分です。

 

根幹が成長する前に実をつけてしまうと、栄養分が実に取られ、植物が育たなくなります。

人間も早い段階で自分の専門を決めて、自分の世界を狭めてしまうと、早くに成長が止まってしまいます。

専門化とは固定することであり、固定されれば自由な成長が妨げられるのです。

柔らかいほうが、多くのことを吸収できるので、可能性が広がります。

大器晩成といいますが、遠回りをするほうが、将来大物になれるかもしれません。

現代の科学は専門化が進んでおり、植物の枝葉のように複雑に細分化しています。

病院の診療科も内科だけでも、呼吸器内科、消化器内科、循環器内科、心療内科神経内科感染症内科、腎臓内科など細分化しています。


人類がここまで進化できた理由は、生物として専門化しなかったことにあります。

専門化せずに、スポンジのように柔らかいままでいたから、多種多様なものを吸収し、さまざま環境に適応していける知能を手に入れたのです。

早く成果を出すために、焦って果実をつけようとするのではなく、土台となる根幹をしっかりと育てましょう。