照心洗心録

安岡正篤、中村天風などから学んだことをまとめています。

7.人間の本質

「自分は体はもちろん、心よりも超越した存在であることを自覚せよ。体も心も道具にすぎないのだ」

 中村天風 

 

私たち人間の正体、言い換えれば人間の本質とはいったい何なのでしょうか。

人間の本質とは、これがなければ人間は人間ではないというもののことです。

人間らしいものといえば、喜怒哀楽を感じたり、ものを考えたりする心が浮かびます。

それならば、心が人間の本質なのでしょうか。

しかし心は、脳が働くことによって動いているので、もし脳がなくなれば、心は消えてしまいます。

それならば、脳は体の一部なので、体がなければ心は存在できないことになります。

そうなると、心が人間の本質とはいえません。

 

私たちが普段見ているテレビ番組は、テレビが電波をキャッチすることで、映像が液晶に映し出されます。

しかしだからといって、「テレビの正体は電波だ」とはならないですよね。

心はテレビにおける電波のようなもので、体を動かすために存在しています。

つまり、心は体を動かすための道具なのです。

 

人類が、ここまで文明を発達させられたのは、他の動物に比べて脳が発達したことによります。

脳が発達したことによって、人間は他の動物とは比較にならないほどの高い知能を獲得し、複雑な思考をすることが可能になりました。

 

では、心が人間の本質でないとすれば、目に見える体が人間の本質でしょうか。

もしそうならば、人間の本質は物体ということになり、人間は、体を維持するために生きているということになります。

そう考える人もいるかもしれませんが、それではなぜ人間は進化の末に理性を得たのでしょうか。

人間は、理性があることによって、善と悪の判断ができるようになりました。

人間の本質がただの物体なら、他の動物と同じように遺伝子を残すことを目的に、本能だけで生きれば良いはずです。

しかし、人間には理性があるので、「自分が生きているなら、あとはどうでもいい」とか、「地球環境が破壊されようが、自分には関係ない」とか、そのようには考えられないはずです。

自分とは直接的に関係のない人たちのことであっても、その人たちが悲惨な環境に置かれているのを見れば、胸が痛みます。

他人のために命がけで行動する人は、自分にとってはマイナスだとしても、そうすることが正しいと思って行動するのです。

そのように、正義のために行動できる人間の本質が、ただの物体だとは思えません。

もし人間の本質がただの物体なら、人間はただ生きるだけの存在になるので、それでは人生に救いがありません。

では、人間の本質は、心や体以外の何かなのでしょうか。

 

人間がどのようにつくられるのか、考えてみましょう。

人間をつくる材料は、その人が生まれる前から、この地球上に存在していたものです。

新しい人間が生まれるからといって、神様が新たにこの世界に、材料を提供してくれるわけではありません。

宇宙のエネルギーの総和は一定で、変わりません。

宇宙の目線からみれば、人間の生死というものは、地球の細胞が入れ替わっているだけにすぎないのです。

一人の人間の生死が、地球という一つの生命体に大きな影響を与えることはありません。

長い地球の歴史から考えれば、一人の人間の生死は、ほんの一瞬の出来事でしかありません。

 

人間の一生の背後には、地球の長い歴史があり、地球の歴史の背後には、宇宙というさらに長い歴史があります。

同じように、一つの細胞の誕生の生死の背後には、人生という歴史があります。

一人の人間の生死が、宇宙のエネルギーの総和に影響を与えないなら、人間の本質は、心や体を超えたもっと大きな何かなのかもしれません。

人類が誕生する前にも、多くの生物の歴史があり、生物が進化と絶滅を繰り返した末に、人類は誕生したのです。

 

人間はこの宇宙から生まれ、宇宙に還っていきます。

そして、その宇宙のはじまりは、莫大なエネルギーでした。

ということは、宇宙から生まれた人間の本質は、エネルギーなのではないでしょうか。

この宇宙の万物は一つのエネルギーから生まれ、そのエネルギーは無から生じたものです。

つまりこの世界の万物は、無から生じた一つのエネルギーが形を変えたものなのです。

 

宇宙と人間を一括りにするのは、想像しづらいかもしれません。

しかし、 地球上で人間の生死が繰り返されているように、 人間の体の中では、細胞の生死が繰り返し行われています。

同じように宇宙の中では、星の誕生と死が繰り返されているのです。

時間の長さや物体の大きさの規模が違うだけで、同じことが起こっているといえます。

地球上のすべては、地球という一つの物体の細胞だと考えられるし、宇宙のすべては、宇宙という一つの物体の細胞と考えることができます。

人間の体と細胞を分けられないように、地球と人間も分けることができないし、宇宙と人間も分けることができないのです。